備後府中では、毎年11月に「議員を語る会」と題した議会報告会を行っています。各会場に5名の議員が登壇し、市民との意見交換を行っています。写真は、今回スタッフが府中市役所でいただいた『議会だより』(2019年2月発行分)です。

市の面積が195.75平方km(武蔵府中の6倍以上)と広いため、会は5日間に分けて、8つの会場で実施されているとのことです。2019年度は各議員が必ず2回登壇するようにスケジューリングされていました。

議会報告会について立憲民主党の土井議員に尋ねたところ「参加者が少ないのが課題です」という回答がありました。また、社民党の水田議員からは「参加者の顔ぶれが同じことが多い」との話もありました。

元々、議会報告会が無い武蔵府中側から見ると、会の実施自体が先進的だと考えますが、実施したからこそ分かる現状や課題を知ると、導入する前にどんな準備や検討が必要なのかが分かってきます。

如何に政治に関心を持ってもらうか?
如何に市民目線の政治を展開していくか?

今回の視察の中で、備後府中の市議会と各議員がこうした課題に立ち向かっていると分かった印象的な場面を3つ紹介します。

1つ目は「傍聴の手続き」です。

通常、本会議や委員会を傍聴する際には、議会事務局で「所定の手続き」が必要となりますが、備後府中では「傍聴券」を渡され、会議場に通されるだけでした。傍聴券は傍聴を終えたところで回収となります。

武蔵府中では紙ベースの傍聴券はありませんが、議会事務局で必ず住所と氏名を記入するよう求められます。

土井議員によると、誰でも自由に傍聴出来るようにと、2019年12月議会から今回の制度になったとのことです。「住所や氏名を書いてもらってもDMを送る訳でもないですから」とも付け加えがありました。

ちなみに、スタッフが傍聴している様子を見たある議員さんが、立憲民主党の芝内議員に対して「あの若いのんは何ねぇ(あの若者は何だい)?」と不思議そうに尋ねていたそうです。

このことを聴いて、市議会の傍聴に足を運ぶ若者が少ないことを痛感しました。あの言葉は「若者よ、もっと政治に関心を持ちなさい」というメッセージだと受け止めています。

続いて2つ目は「タブレット端末(ペーパーレス化)との向き合い方」です。

備後府中では、タブレット端末を利用して会議を進めています。今回傍聴した会議中も、必要な資料をその場で送信する場面が見られました。紙資源の保護や資料の紛失防止などにも一役買っています。

スタッフが傍聴席から委員会の様子を見て記録していると、土井議員がタブレット端末を持って駆け寄り、こういったお話をされたのです。

「議員にはタブレット端末が渡され、議案が表示されます。でも、こうしてしまうと、傍聴している方やインターネットで見ている方などは議案などを見ることができません。だからこそ、市民の皆さんに分かる政治を進めていきたいんです」

この言葉は痛烈に響きました。同時に、土井議員の姿勢に感動しました。

タブレット端末を使ってペーパーレス化を図ることは、議員(議会)と行政側だけの問題と思っていましたが、そこに「市民」という考え方が含まれていたのです。

今回、実際のタブレット端末や画面を見させていただきました。文字が読みやすく、使い勝手も良さそうでした。しかし、市民がそれを見る機会は無く、一部の資料を除き、傍聴人でも手渡されるものはありません。

土井議員は休憩時間中も「一般質問なども、傍聴人や視聴者などに分かる何かが欲しいです」と、市民と政治の距離を近づけたい一心でお話されていました。こうした姿勢は本当に重要だと思います。

その際「インターネット配信中に難しい用語やその意味などを字幕で流す」「一般質問にボードを使用する」などの案を出し合い、「予算や人材が確保できればやりたいですね」と目を輝かせていた土井議員の姿は今も忘れません。

最後に3つ目は「議員間討議(委員会討議)の解釈」です。

建設委員会の休憩時間に(この時点では議員間討議は実施されておらず)、スタッフが議員間討議について尋ねたところ、水田議員から次のような質問が投げかけられました。

「議員間討議は良いものだと映っていますか?」

スタッフはすぐに「良いものだと思います」と答え、ある程度の質疑を終えたら採決にかかる傾向にある武蔵府中の現状を伝えました。水田議員は「なるほどね」と返した上で「今はそうかも知れないですね」と話されました。

以前の備後府中の議員間討議は、現在のような議員の考え方や主張を明らかにするものではなく、行政側への反対意見を抑え込むために行われていたことがあったのだそうです。

仮に、市民にとって有益なものであったり、市民が切に要望するものであったりしても、行政への反対意見と見なされれば、力でねじ伏せられる事態になった…想像するだけでも非常に恐ろしくなってきます。

しかし、市長が新しくなり、市政を改めていく中で、現在のような議員間討議になっていったとのことでした。委員長が「議員間討議」や「討論」を呼びかけることが決まったのも、こうした理由によるものだったのです。

実際に分科委員間討議が始まる前に「水掛け論にならぬよう、明確な論拠を示して」と委員長が求める場面がありました。備後府中において、過去の反省があっての議会改革のひとつが「議員間討議」だったのです。

武蔵府中には「議会報告会」「ペーパーレス化議会」「議員間討議」などが実施されておらず、これらの実施を求める声は議員に限らず上がっています。これらは、無いよりあった方が良いものです。

しかし、これらは実施するにあたってのルールや目的などを明確にする必要があり、実施後の検証や改善などを図らないことには上手く機能しないことが、今回の視察で分かりました。

単なる憧れで終わったり、実施したことだけに満足をしたり…で止まってしまうと、大事なことを見失ってしまいます。その大事なことが「市民という存在」だったのです。

全国各地に、自ら掲げた「市民派」「庶民派」という言葉に重みと説得力がある議員が増えることを願いたいですし、スタッフとして、稲津けんごもそうあって欲しいと思います。

さて、備後府中には、議会報告会や議会傍聴に参加する方の数や顔ぶれ、年齢層が限られているという課題がありました。加えて「議員のなり手不足」も切実な問題と位置づけられていました。

備後府中では2019年12月時点で、46歳の議員が最も若く、20の議員定数に対して女性議員は2名だけでした。2018年の市議選では20名ちょうどの立候補しか無く、無投票で決着したとのことでした。

備後府中では、こうした問題に立ち向かうべく、市民アンケートや無料のシンポジウムを開いて意見を募るなど、市民と政治をつなぐ策を進めているとのことでした。議会傍聴時の記名廃止も、政治へのハードルを下げるものと言えそうです。

市民としっかり向き合いたいからこそ、対策を入念かつ丁寧に行う。備後府中の市議会を傍聴し実情を伺った中で、武蔵府中の現状を深く考えさせられました。


ふたつの府中市 〜東京・広島 それぞれの良さを高める旅〜

※ 「パート1」から「パート5」までの感想部分は、事務所スタッフのものが中心となります。